PSAP

理事長からのご挨拶

すべては患者さんの真の利益のために

 歯学部の卒業式で、当時の大阪大学歯学部長の渕端孟先生(なにわ歯科衛生士専門学校名誉校長)が「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」という孔子のことばを引用されて、歯科医師として患者さんに対する心構えを説かれました。偶然私も恕(思いやり)について説明したそのことばがとても好きだったので、これは歯科医師としてこれから仕事をしていく上でも最優先することにしようと決心しました。
 しかし、現実的には大学で習った最新の知識や技術が、歯科保険の枠組みに応用されているわけではなく、その矛盾に苦しみました。自分が患者さんだったら、こういうことはして欲しくないというような(むし歯になった理由を詳しく説明せず、削って詰めるで終わる)、恕の道に反する歯科治療に直面して、早くも卒業時に決心した心構えと対決することになりました。そこで出した結論は、周りに同調せず恕の道をとことん追求してみることです。そんなことで食べていけるわけがないと批判されても、どこまでできるか自分の人生で実験しようと思いました。
 その人生実験は、スウェーデン・マルメ大学への留学へとつながります。そこのダグラス・ブラッタール先生のお仕事は私の憧れでした。先生は孔子のように思いやりを大切にされる方で、常に患者さんや学生、聴衆の立場でものを考えておられたように思います。むし歯の原因を詳しく研究し、それを患者さんが使えるようにツールを作られ、またWHO世界保健機関の顧問として世界中の国々のむし歯予防に尽力されていました。
 新しい分野であるむし歯のリスク評価でもグンネル・ペターソン先生と共に世界を牽引していましたが、その矢先に病に倒れられ、残念ながら他界されました。しかし、マルメ大学を訪れるたびにブラッタール先生の精神は、確実に受け継がれているなあと感じます。ペターソン先生が「ダグラスは一滴の雫を水面に落とし、それが今波紋となって広がっているよう」と表現されました。
 このNPO法人"科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会"(旧称「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)(PSAP)はその波紋が日本にも広がって日本の患者さんにも恩恵が行き渡るようにという願いを込めて作られました。歯科医療の主人公である患者さんの立場に立って、最先端の予防方法を伝えて、それを患者さんが歯科医院で実現できるように。自分だったらして欲しくないことを歯科医療でしないように。卒業式の時に立てた恕の道の決心をこれからも貫いて行きたいと思います。

2010年10月18日(2023年6月26日改訂)
西 真紀子 

理事長略歴

西 真紀子

歯科医師 / MDPH / Ph.D. / 学士(歯学) / 学士(教育)

大阪大学歯学部を卒業後、同大学歯科保存学講座や日吉歯科診療所での勤務の他、マルメ大学・コーク大学・新潟大学など3つの世界保健機関協力センターに所属。カリオロジーの最新の知識を低・中所得国に応用してう蝕に関して「Health for All」を目指して追究している。約15年間を欧州で過ごした経験から、グローバル・スタンダードに基づいたオンラインセミナー「日曜のフィーカ」を毎週開催している。また、質の高い歯科情報をソーシャルメディアにて一般向けに伝えている。

1992年 神戸大学教育学部 卒業
1996年 大阪大学歯学部 卒業
1996年〜1999年 同大学歯科保存学講座 勤務
2000年〜2001年 マルメ大学 留学
2001年〜2004年 山形県 日吉歯科診療所 勤務
2005年〜2007年 コーク大学 Master of Dental Public Health取得
2008年〜2018年 同大学 Ph.D.取得
2018年 NPO法人 最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会(PSAP) 設立
2020年〜2021年 新潟大学医歯学総合病院予防・保存系歯科(予防歯科) 勤務

法人概要

法人名 NPO法人"科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会"
(旧称「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
Promoting Scientific Assessment in Prevention of tooth decay and gum disease
創立 2010年(平成22年)7月23日
基本理念 (1) 口腔二大疾患(むし歯と歯周病)の予防
(2) 口腔と全身の生涯に渡る健康
(3) 科学的根拠に基づく医療
代表者 西 真紀子
連絡先 psap@psap.tokyo
活動内容 (1) インターネットによる情報提供
(2) リスク評価に基づく口腔予防に関する普及啓発
(3) 最新知見に基づく口腔予防の調査・研究
(4) 出版
(5) 講演・イベント
(6) その他目的を達成するために必要な事業