[提案]6歳未満のお子さんに高濃度フッ化物配合製品(9,000 ppmなど)を使うことの再考を!

2023/09/12

小さなお子さんをお持ちの親御さんたちは、1歳半児検診や3歳児検診で、高濃度フッ化物配合製品(9,000 ppmなど)を塗布してもらっているでしょうか? または歯科医院で、6歳未満のお子さんに高濃度フッ化物配合製品(9,000 ppmなど)を塗布するようお願いしたり、勧められたりしたことがおありでしょうか?

最近、厚生労働省から発表された「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」によると、フッ化物塗布経験者の割合は以下の通りでした。

1歳(14人):14.3%
2歳(15人):40.0%
3歳(19人):36.8%
4歳(10人):40.0%
5歳(17人):47.1%

これらのすべて、または一部が、高濃度フッ化物配合製品(9,000 ppmなど)の場合、ここで再考を促したいと思います。16歳以下の未成年への高濃度フッ化物ジェルの効果を調べたコクラン・レビュー(Marinho et al. 2015)の平易な言語による要約の背景のセクションに、乳幼児への使用について、このように記載されています。

It is not uncommon for young people to accidentally swallow some of the gel; feelings of sickness, vomiting, headache and stomach pain have been reported when too much is swallowed. Due to this risk of toxicity, fluoride gel treatment is not generally recommended for children less than six years old.
「小さい人が誤ってジェルを飲み込んでしまうことは珍しくありません。多過ぎる量を飲み込んでしうと、吐き気、嘔吐、頭痛、胃痛などが報告されています。このような毒性のリスクがあるため、一般に6歳未満の小児にはフッ化物ジェル治療は推奨されません。」

同じくフッ化物配合ジェルを2021年の「必須医薬品・診断薬リスト」(Essential Medicines List=EML)に申請するために提出されたWHO(世界保健機関)の書類にも、フッ化物配合ジェルは6歳以上の者に使うよう推奨しています。さらに、2019年のヨーロッパ小児歯科学会のガイドラインでも、5,000〜12,300 ppmのフッ化物配合ジェルは6歳未満の者には使用禁忌としています。ジェルの誤飲とむし歯予防のリスク・ベネフィット比を考慮して、危険性の方が増すためです。このガイドラインでは、フッ化物配合洗口液(225 ppm の毎日法、900 ppmの週一回法)も同じ理由で6歳未満には使用禁忌としています。

ここまで文献が揃うと、もうこれは国際的なコンセンサスと言えるでしょう。日本でも、ようやく6歳未満に1,000 ppm のフッ化物配合歯磨剤が推奨されるようになりました。そして、「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」から1.5歳児や3歳児にはほとんどむし歯は認められないと推察されます。このような新しい日本の状況を総合的に考慮し、1.5歳児検診や3歳児検診、または歯科医院に来院する6歳未満の乳幼児には、高濃度フッ化物配合製品(9,000 ppmなど)を塗ってもらうよりも、食事指導や家庭における1,000 ppm のフッ化物配合歯磨剤(歯の萠出〜3歳未満は米粒サイズを1日2回、3歳〜6歳未満は豆粒サイズを1日2回)を使った仕上げ磨きのやり方を教えてもらうなどの方に重心を移すべきではないでしょうか。

<参考文献>

厚生労働省. 令和4年歯科疾患実態調査結果の概要https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001112405.pdf

Marinho VC, Worthington HV, Walsh T, Chong LY. Fluoride gels for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jun 15;2015(6):CD002280.

World Health Organisation. Application for new medication: fluoride gel.

https://cdn.who.int/media/docs/default-source/essential-medicines/2023-eml-expert-committee/applications-for-new-formulations-strengths-of-existing-listed-medicines/f5a_fluoride-gel.pdf?sfvrsn=8cb976bf_1

Toumba KJ, Twetman S, Splieth C, Parnell C, van Loveren C, Lygidakis NΑ. Guidelines on the use of fluoride for caries prevention in children: an updated EAPD policy document. Eur Arch Paediatr Dent. 2019 Dec;20(6):507-516. 一般社団法人 日本口腔衛生学会, 公益社団法人 日本小児歯科学会, 特定非営利活動法人 日本歯科保存学会,  一般社団法人 日本老年歯科医学会. 4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法. https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news/2023/news_230106.pdf

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